川本眼科

文字サイズ

小 中 大

川本眼科だより

川本眼科だより 256網膜静脈閉塞症2021 2021年5月31日

この病気は川本眼科だより133,175 でも取り上げています。どういう病気か説明は変わりません。ただ、7年を経過して新しい薬も登場しましたし、大規模な臨床試験が行われて治療法方針もだんだん変わってきました。

2021年時点での最新情報を踏まえて治療方針を考えてみたいと思います。

網膜中心静脈閉塞症(もうまくちゅうしんじょうみゃくへいそくしょう)

網膜中心動脈は網膜に血液を送り込む太い血管で、網膜中心静脈は逆に網膜から血液を送り出す太い血管です。2つの血管は並んで走っています。

中心静脈に狭窄部ができ血栓が詰まってしまう病気が網膜中心静脈閉塞症です。動脈のほうが圧が高く、静脈を圧迫しやすいのです。

重症(虚血型)だと視力が大幅に低下し、難治で、時には失明もありえます。軽症(非虚血型)だと視力が良好で自覚症状すらほとんどない場合がありますが、途中から重症化することがあり、油断できません。

新生血管緑内障という厄介な合併症を起こすことがあって、これを防ぐためにはレーザー治療が有効です。

網膜静脈分枝閉塞症(もうまくじょうみゃくぶんしへいそくしょう)

網膜中心動脈は枝分かれして分枝動脈となり、最後は毛細血管となって網膜に酸素や栄養を供給します。今度は分枝静脈になって次第に合流していき、最後は網膜中心静脈になります。

網膜静脈分枝閉塞症は、動脈と静脈の交差部で圧が高い動脈に静脈が圧迫され、狭くなって箇所に血栓が形成されて詰まり、出血する病気です。

2つまとめて網膜静脈閉塞症と総称します。

黄斑浮腫(おうはんふしゅ)が視力を決める

黄斑は網膜の中心部で視細胞が密集しています。視力はほとんど黄斑の働きで決まるのです。ですから、黄斑に影響が出ると視力は大きく低下してしまいますし、逆に黄斑以外に出血してもさほど見え方は変わらず、自分では気がつかないこともあるほどです。

網膜静脈閉塞症ではVEGFという炎症物質が大量に産生され、その結果黄斑浮腫を生じ、視力が低下すると考えられています。黄斑浮腫を改善させれば視力はある程度回復します。長期間放置すると視細胞に不可逆的なダメージを受け、視力は元に戻らなくなってしまいます。

OCTという検査機器を使うと、黄斑の断面像を観察でき、黄斑浮腫を直接評価できます。今や病状把握や治療効果判定には欠かせません。

蛍光眼底造影という検査をすればさらに詳しい情報が得られて有用ですが、アナフィラキシー等のリスクがあるので全例には検査していません。

抗VEGF薬の硝子体注射

抗VEGF薬は炎症物質であるVEGFの産生を劇的に抑え、網膜静脈閉塞症の黄斑浮腫に良く効き、この病気の視力予後を変えた画期的薬剤です。ただ、保険薬ですが、きわめて高価です。

硝子体注射は白目のところから眼球に直接注射する方法で、痛そうに思うでしょうが実は神経が少ない部位でそんなに痛くはありません。

現在、3種類の抗VEGF薬が発売されています。ルセンティスアイリーアベオビュです。ルセンティスとアイリーアの効き目はほとんど同じです。ベオビュは期待されていますが網膜静脈閉塞症に対してはまだ認可されていません。

 網膜静脈閉塞症による黄斑浮腫(OCT画像)
 硝子体注射の翌日。既に浮腫が軽減
 硝子体注射後10日。ほぼ正常の形状に回復。

1回注射すると次の注射まで4週間以上間隔を開けます。まず1回注射して効果を確認し、後は病状をみて追加投与しています。注射回数は1回だけのこともあれば、十数回に及ぶこともあり、平均すると4回くらい必要です。病状が落ち着くまで1~3年くらいかかるのは普通で、長期戦になると覚悟しておいて下さい。

レーザー治療(網膜光凝固)

抗VEGF薬が登場してからレーザーの出番は減りました。全く使わないこともあります。

しかし、網膜静脈閉塞症は落ち着いたように見えても、後になって新生血管という異常血管が出現して、硝子体出血や難治な緑内障の原因になります。新生血管を防止するのにレーザーは有効です。網膜に出血がたくさんある時期より、出血がほぼ引いた時期にレーザーするのが推奨されています。

内服薬や目薬は?

残念ながらここ10年新しく登場した薬はありません。目薬は病巣まで十分な量が到達せず無効だと考えられています。内服薬は使われますが、あくまでも治療上補助的な役割にとどまります。

カルバゾクロムは血管の壁を強化する薬です。効果は限定的ですが安全性が高いのでよく使われます。出血が多い時期だけ使っています。

低用量アスピリンは血栓ができて網膜の別の場所や反対側の目に新たな網膜静脈閉塞症を起こすのを予防する目的で投与しています。安価で安全性の高い薬なので、長期投与に向いています。

網膜静脈閉塞症の危険因子

高血圧、動脈硬化、糖尿病などがあると網膜静脈閉塞症を起こしやすいことが知られています。ただし、そういう危険因子がなくても発症します。

片目に網膜静脈閉塞症を発症した人は、反対側の目に発症することを予防する意味でも、これらの病気をしっかり治療しましょう。

(2021.5)