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川本眼科だより

川本眼科だより 262薬の量を加減する 2021年11月30日

点眼薬でも内服薬でも量を加減することは大事です。病状によって増やしたり減らしたりしますし、場合によっては中止したり再開したりすることもありえます。

また、回数をきっちり守っていただきたい薬もありますし、状態に応じて患者さんの判断で加減していただく薬もあります。

今回は薬の量の加減をテーマにしてみました。

ステロイドを加減する

ステロイド(フルオロメトロン、ベタメタゾン等)は炎症を抑える薬です。眼科でもよく使います。目薬、眼軟膏、のみぐすり、様々なステロイドを使います。

ステロイドがなければ眼科の診療は成り立ちません。アレルギーに使い、結膜炎・ぶどう膜炎に使い、ドライアイにも使い、まぶたの腫れにも使います。手術後の炎症を抑えるにも欠かせません。点滴して失明の危機から救われることもあります。

一方、ステロイドには副作用があり、目薬なら眼圧が上昇したり、感染への抵抗力が落ちたりします。のみぐすりではもっと多くの副作用があります。一般に、強いステロイドほど副作用も強く、量や回数が多いほど副作用が強くなります

医師は、副作用を常にチェックしながら、強さの異なるステロイドを使い分け、量や回数を慎重にコントロールしています。効果が不十分なら治療を強化しますし、ステロイドが原因で眼圧が上昇しているなら減量します。

ステロイドについては医師の指示を厳守して下さい。増量も減量も勝手に判断せず医師にご相談ください。使用中はあまり受診間隔を開けるのは危険です。

抗菌剤の使い方

抗菌剤の目薬も眼科で使用頻度の高い薬です。細菌感染が原因なら抗菌剤は欠かせません。ステロイドほど神経質になる必要もありません。

ただ、最近は耐性菌の出現が大問題となっており、安易な使用に警鐘が鳴らされています。

抗菌剤を使うと「抗菌剤に弱い細菌」は死滅しますが、「抗菌剤に抵抗力のある細菌」だけが生き残り、他の細菌がいなくなった場所にはびこります。これが耐性菌で、いざという時に抗菌剤が効かなくて困ることになります。

抗菌剤を中途半端に使用すると出現しやすいので、使うならすべての病原菌が死滅するよう一定期間だけきっちり使い、その後完全に中止します。「まだ何となく調子が悪い」などといつまでも続けることは避けましょう。大したことがなければ最初から使わないほうがよいとされています。

めやにが出るからと抗菌剤の目薬を欲しがる方が多いのですが、朝めやにが出るから朝1回だけさすなどという使い方をすると耐性菌をつくっているようなものです。それほど心配ない場合には、洗眼して済ますとか、軽い抗炎症剤の目薬で様子をみていただいています。

点眼回数の実態

目薬をきちんとさしているか患者さんにお伺いすると、「きちんとさしている」との御回答がほとんどです。しかし、目薬の消費量から判断して点眼回数を守っているとは思えないケースにしばしば遭遇します。

さらに根掘り葉掘りお尋ねすると、点眼回数はいい加減で、しかも複数の目薬の中で気に入ったものだけさしていることが判明したりします。

医師としては処方した目薬はきちんと使われているという前提で診察しています。現在の目薬で効果が得られなければ、目薬を変更する/追加するということを検討することになります。たとえ指示を守っていなかったとしても正直に申告していただくことは大事です。

緑内障の目薬は回数厳守

緑内障は長期間にわたり目薬を使い続ける必要がある病気です。きちんと目薬を使わないと徐々に進行してしまい、元には戻りません。必要性の高い大事な目薬ですから必ずさしましょう

緑内障の目薬は数多くありますが、最近頻用される目薬はほとんどがが1日1回点眼か2回点眼になっており、1回忘れてしまうと影響が大きいです。朝洗顔前にさすとか、内科の薬をのむときに一緒に使うとか、生活習慣と結びつけると忘れにくいと思います。

緑内障の目薬を指示された量や回数より多くさすのはどうでしょうか? 量は1滴でよく、2滴も3滴もさしても、こぼれてしまうだけです。上手にさせなかったときだけもう1回さして下さい。また、回数を増やしても効果はほとんど変わらず、副作用だけが起こりやすくなってしまいます。

緑内障の目薬は回数厳守でお願いします。

適当に加減してよい薬

ドライアイの目薬(ジクアス、ムコスタ、ヒアルロン酸等)はよく出されますが、回数はそれほどこだわらなくて大丈夫です。ただ、点眼回数があまりに少ないと効果も期待できません。回数が多くても大丈夫です。特にジクアスとヒアルロン酸は、1日4回と指示されたら、4回以上という意味だとお考え下さい。10回さしても大丈夫。

疲れ目/眼精疲労の目薬(マイピリン、シアノコバラミン等)も適当にさして大丈夫です。1日4回点眼が標準ですが、多くても少なくても問題ありません。

抗炎症剤の目薬(ジクロフェナク、プラノプロフェン、アズレン等)は、術後に処方されたとき、炎症が再燃する可能性があるときには真面目にさして下さい。ただ、これらの目薬は長期連用にも適しており、「それほど心配ないが副作用も少ないし念のため」という使い方がされていることが多く、何ヶ月もさし続けているようなケースでは回数を適当に加減しても大丈夫だと思います。

白内障の目薬は?

白内障の目薬(ピレノキシン)はそもそも白内障を元に戻すだけの力はなく、進行を遅らせるだけの目薬です。目的は手術までの時間稼ぎです。手術時期を遅らせたくて、目薬をさすことは苦にならない方に適しています。

本来は1日4回点眼する目薬ですが、1日1回でも2回でもそれなりに効果はあります。さしたりささなかったりでもOK。もちろん、効果を最大限発揮させたければ回数を守って下さい。

薬の変更には抵抗が

川本眼科では以上のようなことを考慮しながら点眼内容を決めていますが、目薬を変更しようとすると患者さんから強く抵抗される場合があります。目薬を始めるときに嫌がっていた方が目薬を止めるときにも嫌がるのは不思議です。

人間には現状を変更したくないという保守的な傾向があるのだと思います。ステロイドの副作用を説明してもとにかくたくさん出してくれと言われたり、耐性菌問題を説明して抗菌剤を中止しようとしても継続を懇願されたりします。

患者さんの希望は、必ずしも科学的でエビデンスに基づいた診療というわけではないようです。

(2021.11)