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川本眼科だより

川本眼科だより 291病名あれこれ 2024年4月30日

最近は「正確な病名を知りたい」という要望が多くなりました。ネットで検索をする人が多くなり、検索のキーワードとして必要なのでしょう。

ただ、病名はしばしば変わります。また、同じ病気に複数の病名が使われていることもあります。

今日は病名をはじめ、医学用語がどのようにして決まるのかを話題に取り上げます。そんなに詳しいわけではないので正確でないかも知れません。御了解ください。

昔からの病名と新しい病名

昔から使われてきた病名には白内障や緑内障があります。ただ、昔と今で全く同じ内容をさしているわけではありません。昔は病気のことがよく分かっていなかったので、正確な定義もできていなかったと考えられ、今日では別の病気とされているものが混じっていたでしょう。

明治以後西洋医学が導入された時に、外国語を日本語に訳すために、先人が知恵を絞って日本語の医学用語を作り出しました。今でも多くが使われています。中国で採用された用語もあります。

医学が進歩し、病気の理解が進むと、1つの病気と考えられていたものが別々の違う病気だと判明したり、より正確な病名に変更しようという動きが出てきます。

日本人がつけた病名も

日本の研究レベルが上がると、小口病・原田病など日本人の名前がついた病名や、モヤモヤ病のように日本人がつけた病名も増えてきました。

ただ、最近は日本人が命名した場合でも、国際的に通用するように英語の病名をつけるのが普通になっています。少し残念です。

同じ病気にいろいろな病名

黄斑前膜」という病気があります。同じ病気を「黄斑上膜」とも呼びます。膜が網膜の前にあるか上にあるか見方が違うだけです。この病気には「黄斑パッカー」「黄斑前線維増殖症」という別名もあります。どの出身大学で教育を受けたかが関係しています。

同じものに複数の名前があると混乱しますから、日本眼科学会では用語委員会を作ってできるだけ統一しようとしています。ただ歴史的経緯もあって意見がまとまらないこともあるようです。

糖尿病性か糖尿病か

糖尿病網膜症」という糖尿病の合併症があります。以前は「糖尿病網膜症」という呼び名が一般的でしたが、眼科の用語委員会では「なるべくシンプルな呼称を」という考え方から「性」という文字を外してしまいました。

ところが、糖尿病の合併症は他にも「糖尿病腎症」「糖尿病神経障害」などがあります。内科では用語を変更しなかったので、「性」の字が付いたり付かなかったり、バラバラになってしまいました。多くの医師はどちらでも気にしないというスタンスですが、検索にも不都合ですので、どちらかに統一してほしいところです。

医学の進歩で病名が変わる

医学が進歩し、病気のことが詳しく分かってくると、古い学説に基づいた用語では適切ではないとされ、新しい名前が提唱されます。

例えば、滲出型(しんしゅつがた)加齢黄斑変性という病気は新生血管型加齢黄斑変性と改名することになりました。日本網膜硝子体学会の提唱です。新生血管があるにもかかわらず滲出性変化がない状態が存在することがわかったためです。海外では既にneovascularという用語が一般的です。滲出型という用語は患者さん向けのパンフレットでも長年使われているので、しばらくは混乱しそうですね。

変えられない病名も

あまり適切ではないのではないかと言われながら、変えるに変えられない病名もあります。

ぶどう膜炎は、原田病やベーチェット病など眼の内部に炎症が起こる様々な病気の総称です。網膜や硝子体や視神経などぶどう膜(虹彩・毛様体・脈絡膜)以外が炎症の主体のこともあるので、ぶどう膜炎という病名は本当は不正確です。

代わりに「内眼炎」という病名が提唱されましたが定着しませんでした。ぶどう膜炎は昔から使われ続けた言葉で、いまさら差し替えるのは大変ですし混乱も起きます。それに別に「眼内炎」という感染症があって、紛らわしいし、誤解が生じそうです。

結局、今後も「ぶどう膜炎」が使われ続けると思います。

英語の略称が使われる

国際的に通用する医学論文や国際学会では英語が使われます。完全に英語の天下です。英語で発表しないと「自分が先に研究成果を公表した」と認めてもらえないので、大事な論文はどこの国でも英語で書きます。

病名も英語で命名されることがほとんどになりました。日本では何らかの訳語を当てるわけですが、その訳語よりも元の英語をそのまま使うことが増えてきています。そのほうが何かと便利だったりするわけです。

ただ、英語で表記すると長ったらしいです。カタカナ表記にするとなおさらです。その結果、英語の略称を使うことが増えます。

例えば野球の世界でも、昔は大リーグと言っていましたが、今ではメジャーリーグと言います。長いのでMLBと略して呼びます。

同じように、加齢黄斑変性AMDと略します。age-related macular degenerationの略です。後天性免疫不全症候群はAIDS(エイズ)です。

略称は短くて便利です。略称は知っていても元の長い病名は分からない人が多いでしょう。

略称の意味がわからない

略称には問題があります。同じ略称が複数の意味になってしまうのです。CDはコンパクトディスク以外に現金自動支払機(キャッシュディスペンサー)等の略称でもあります。医学の世界では、DMという略称を糖尿病にも皮膚筋炎にも使うので、誤解の原因になることがあります。

略称は使い慣れた人にはとても便利ですが、知らないとちんぷんかんぷんです。医師でも、専門でない分野の略称に戸惑うことはよくあります。特に最近使われ出した略称だと医学事典にも載っていないしネットで検索してもヒットしません。略称の意味を相手が知らない可能性があるときは、何の略称なのか説明が必要だと思います。

(2024.4)