川本眼科

文字サイズ

小 中 大

川本眼科だより

川本眼科だより 21マイボーム腺 2001年11月30日

マイボーム腺って、いったい何でしょう?
 
実は、目のまわり、まぶたのところに60個くらいもあるんですよ。油を分泌して、涙が蒸発するのを防いでいます。
 
歳をとると眼の調子がおかしくなって、「ショボショボ」「シバシバ」「ゴロゴロ」して不快感があるのは、どうやらマイボーム腺の働きが悪くなっているのも関係しているらしいんです。

マイボーム腺とは?

マイボーム腺はまぶたのふちのところにあります。上下のまぶたにそれぞれ30個くらいあり、開口部がふちのところにほぼ一直線に並んでいるのですが、鏡で見ても肉眼で見分けるのはちょっと難しいと思います。
 
油(脂質)を分泌していて、この油がまばたきで涙の表面にひろがり、涙が蒸発するのを防いでくれています。まぶたを圧迫すると、マイボーム腺から油が出てくるのを観察できることがあります。
 
皮膚には皮脂腺というものがあります。ふつう毛穴のところにあって、油(皮脂)を出しています。マイボーム腺も皮脂腺の1つなのですが、ふつうの皮脂腺と違い、毛がありません。
 
マイボーム腺からの油の分泌はホルモンの影響を受けます。ですから、マイボーム腺に関係した病気の中には、女性に多いものや、月経時に悪化するものなどが知られています。

マイボーム腺機能不全とは?

機能不全とは、要するに「働きが悪い」ことです。マイボーム機能不全には油が出なくなるタイプ(分泌減少型)と油が出すぎるタイプ(分泌過多型)があり、日本では圧倒的に油が出なくなるタイプ(分泌減少型)が多いのです。とくに高齢者に目立ちます。
 
なぜ油が出なくなるかというと、油の性状が変わって固まりやすくなるためだとされています。高齢者で、マイボーム腺を圧迫すると、練り歯みがき状の内容物が出てくることがあります。さらに性状が変化して固いかたまりになって詰まってしまっていることもあります。
 
マイボーム腺の働きが悪いと、涙の表面に蒸発を防ぐための油の膜がきちんとできません。そのため、それだけ涙が乾きやすくなります。
 
涙の量が少なくて調子が悪くなることを「ドライアイ」と言います。ドライアイには、涙の分泌量が減っているものと涙が乾きやすくなっているものがあると考えられていますが、症状だけからは区別することはできません。
 
マイボーム腺機能不全は、涙の蒸発を防ぐ油がうまく出なくなることから、ドライアイの重要な原因の1つと考えられています。
 
自覚症状としては、目の疲れ、充血、ゴロゴロして何か入っている感じなどがあります。こういう症状は、だいたいドライアイの自覚症状とほぼ同じです。

マイボーム腺機能不全の治療

ドライアイの場合、ふつう涙の代わりになる目薬(人工涙液)をさす治療が行われますが、目薬をさしたそばからまた乾いてしまうため、なかなか十分な効果が得られません。
 
とくに、マイボーム腺から油が出ない場合は、涙が蒸発しやすくなっており、いくら目薬をさしても症状が改善しないことがあります。そこで、なんとかマイボーム腺から油を出すことができないかという治療が試みられることになります。
 
昔から行われている方法としては眼瞼マッサージがあります。これは、まぶたのところを圧迫して油を出そうとするものですが、マイボーム腺が詰まっている場合、油が固まってしまっていることが多く、簡単には出てこないのです。
 
次に、固まった油を溶かすことが考えられました。研究によると、だいたい40℃にすると油が溶けるそうです。
 
簡単なのは、暖かいおしぼりを使うことでしょうが、5分くらいは暖め続けないと効果がありません。すぐに温度が下がってしまうのがおしぼり方式の難点です。お風呂にタオルを持ち込んで、何度もお湯に濡らして40℃を保つといった工夫が必要です。
 
最近では、赤外線を使った治療器具も出ています。温度を一定に保つことができるので、確かに有効のようですが、1日2回2週間くらい使うと効果が出るとされ、たまに眼科にかかったときに1回使うくらいではあまり意味があるとは思えません。やるなら毎日通っていただくことになるのでしょうが、実際には難しいですね。
 
ほかに、まぶたを清潔にする(消毒薬の入った綿で拭く)、抗生物質の点眼をする、ステロイドの点眼をする、抗生物質とステロイドをまぜた軟膏をまぶたに塗る、などの治療法が行われています。しかし、抗生物質やステロイドを長期にわたって使うのは、副作用の問題があるので、私としてはあまりお勧めできません。

ものもらい(めんぼ)

マイボーム腺(ほかの分泌線の場合もある)が細菌感染をおこすと、まぶたが赤く腫れ、さわると痛くなります。これを「ものもらい」と言っています。「めんぼ」とか「めばちこ」などとも呼ばれますが同じものです。
 
細菌感染ですから抗生物質はある程度有効で、とくに周辺に炎症が波及するのを防ぐ効果が期待できますが、外から投与しても病巣部に移行しにくいので、ある程度膿がたまっている場合は切開して膿を出してやることが必要になります。
 
逆に、あまり早い時期だと切開してもほとんど膿が出ないことがあり、適切な時期を選ぶことが大事です。
 
マイボーム腺の開口部はまぶたのところに60個くらいあり、他の分泌線を含めると100個以上になりますから、この開口部に細菌が入り込んで炎症をおこしやすいのは納得していただけると思います。
 
ものもらいはなぜか短期間に何度もおこすことがあります。右目におきたかと思うと左目、上まぶたにできたかと思うと今度は下まぶたにできる、ということがあるのです。
 
たぶん、ホルモンなどの影響で油の性状が変化し、炎症をおこしやすくなるのだろうと考えられていますが、きちんと調べられてはいないようです。ものもらいというのは、それほど重大な病気ではないので、あまり熱心に研究しようという人がいなかったせいでしょう。
 
高齢者の場合、ものもらいだと思って治療していたら、実はガンだったということがあります。ものもらいを治療しているのに同じ場所に再発を繰り返すケースでは、ガンの可能性も考えてきちんと調べる必要があります。

2001.11