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川本眼科だより

川本眼科だより 24色覚異常と検査 2002年2月28日

注)既に学校での色覚検査は廃止されてしまいましたが、私は復活させるべきだという立場です。

数年前より、学校での色覚検査は小学校4年の時1回だけになりました。
 
また、昨年、企業が人を雇い入れる際の色覚検査の義務づけが廃止されました。表示を「色」以外の方法で識別するよう工夫することも決められました。
 
色覚異常者に対する大学受験時や就職時の制限は、昔にくらべて大幅に緩和されてきています。

色覚異常は生まれつき

色覚異常は、遺伝によって決まっています。性別を決めるX染色体というところに色覚を決める遺伝子の座があるので、色覚異常は男性に圧倒的に多くみられます。男性の20人に1人は色覚異常です。女性の場合は500人に1人しかなりません。女性の多くは保因者となり、自分は色覚異常になりませんが、子供が男の子の場合色覚異常になりやすいわけです。
 
遺伝によって決まっているものなので、薬や訓練で治療できるものではありません。遺伝子操作によって治療するという可能性はあるわけですが、遠い将来の話ですね。
 
世の中には「色盲・色弱が治る」と宣伝している業者がいますが、詐欺的商法ですので、ひっかかってはいけません。これは、色覚検査の時に用いる「石原式色覚検査表」を読めるように教え込むだけの話で、治療としては全く意味がありません。

色を識別する範囲が狭い

色覚異常といっても、ほとんどの場合白黒の世界というわけではなく、色の識別は相当程度できるのが普通です。ただ、一般の人より色を識別できる範囲が狭いのです。
 
色覚異常にも分類があり、程度も重症・軽症があるので、それによってどんな色を間違えるかが違います。
 
比較的多いのは赤・緑・茶が見分けられない場合です。例えば、社会科の地図で平野と山を色分けしているのがわかりにくいことがあります。交通信号も赤と緑を使いますからわかりづらく、信号を位置だけで判断している人もいるのです。
 
ピンクと灰色も見分けにくいようです。赤みが薄くなると判別が難しく、濃淡しかわからなくなってしまいます。
 
正確に色がわからなくても、ある程度は経験や記憶により判別することができるので、とくに軽症の色覚異常者では、ふだんそれほど不便な思いをするわけではありません。自分では色覚異常を自覚しない場合も結構あります。また、実生活では、「色」以外にもいろいろものを区別する手がかりがあるのが普通です。
 
しかし、人工的に色分けしていて全く同じ形や大きさで色だけが違っているものとか、はじめて見るもので経験が役に立たない場合は、どうしても間違えやすくなります。

大学受験・就職時の制限緩和

従来、色覚異常者に対しては、大学受験や就職の際に多くの制限がありました。
 
例えば、ほとんどの医学部では色覚異常者の受験を認めていませんでした。血の色や患者さんの顔色がわからないと困るだろう、という理由です。
 
しかし、医師といっても、基礎医学の研究者もいれば公衆衛生領域を担当する人もいます。外科医には向かないかも知れませんが、それも色覚異常の程度次第でしょう。色を見分ける能力は医師としての資質のごく一部に過ぎません。色覚異常者をすべて排除する根拠は薄いということで、今日ではほとんど門戸は開放されています。
 
理科系の学部の多くも受験を認めていませんでした。色の違いにより結果を判断する実験などに支障があるという理由です。
 
しかし、実はこういう制限のほとんどは、頭の中で「支障があるのではないか」と想像して設けられたもので、実際に支障があることを確認したわけではありませんでした。実際には、大学の授業だけのことならあまり問題ないということになり、今では理系の学部の多くは、色覚異常があっても受験を認めています。
 
また、昨年(2001年)の10月、労働安全規則が改正され、雇用時健康診断における色覚検査の義務づけが廃止されました。これは色覚検査を禁止するわけではないのですが、「現場で実際に使用されている色の判別が可能か否かを確認する」にとどめることになっていて、色覚異常者に対する制限を緩和しようという意図です。長年の色覚異常者への差別撤廃運動の成果と言えましょう。
 
ただ、歴史的には、色覚異常が原因で列車事故がおこり、列車の運転士として色覚異常者は採用しなくなったという経緯があります。信号や標識が区別しにくいと困りますからね。列車の運転士や航空機のパイロットなどは、大勢の人間の安全を守るわけですから、こういう制限があってもやむを得ないのではないかと思います。

「色」以外に識別方法を

色表示は「目立つ」「わかりやすい」という理由から頻用されるようになりました。色覚が正常な97%の人間には、色のほうが文字や記号より早く判断できて見分けやすいのです。
 
しかし、3%の色覚異常者は困っています。
 
例えば、地下鉄の路線図は、色で路線を区別していますが、これは色覚異常者には大変見分けにくいもののようです。
 
対策としては、色以外に文字や記号を併用すればよいわけです。路線図なら、各路線に番号をつけて、路線を示す色線のところどころに路線番号を入れておけばよいでしょう。
 
また、交通信号なら青信号に○を、赤信号に×を浮かび上がらせるようにすれば、色覚異常者にも読みとりやすくなります。
 
前述した昨年の労働安全規則改正では、職場における安全確保のための表示・標識について、「『色』による表示に加え文字の併用や工夫を行う。また、区別しやすい色の組み合わせで表示する」と定められました。これは職場だけでなく、あらゆるところで実現したいものです。
 
コンピュータの普及に伴い、個人がカラーの印刷物を作ったり、インターネットのホームページを作る機会が多くなってきました。こういうときにも、色覚異常者の存在を念頭に置いて、色がわからなくても内容が理解できるように配慮していただきたいものです。とくにバックの色と字の色の配色が適切でないと読みづらくなります。色の使用を控えめにして、濃淡のコントラストをつけて作ることがコツのようです。

色覚検査の完全廃止は疑問

今日、一部の医師が「色覚異常なんてものはないんだ、それは個性だ、検査なんかする必要はない」と主張し、学校における色覚検査を完全に廃止するよう運動しています。
 
確かに、色覚異常はとくに劣等感を持つ必要はないことです。しかし、人口の95%以上の人が見分けられる色を見分けられないというハンディキャップはあるわけで、本人がそのことを自覚しておく必要はあるでしょう。やはり、学校で1回はチェックしておくべきものと考えます。

2002.2