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川本眼科だより

川本眼科だより 61代替医療・統合医療 2005年3月31日

西洋医学で十分な治療ができないような疾患に対し、「代替医療」が注目されています。
 
代替医療には問題がたくさんあります。何より、もっと客観性が必要だと思います。
 
しかし、代替医療の考え方には耳を傾けるべき点もあります。そういう優れた部分を普段の医療に活かすことは大切です。そういう観点から、西洋医学と代替医療を包括した医療を目指す動きもあり、これを「統合医療」と呼んでいます。

今回は代替医療や統合医療についてご紹介し、その可能性と問題点をご説明いたします。

代替医療とは

現代西洋医学は大成功を収めてきました。たくさんの病気が西洋医学のアプローチで治るようになりました。
 
しかし、西洋医学でなかなか良くならない病気が結構多いのも事実です。とくに慢性疾患にそういう傾向があります。しかも、西洋医学による治療が、かえって副作用や合併症の問題をおこすこともあります。
 
そこで、最近、西洋医学でうまくいかない領域に別のアプローチをしてみようと考える人が多くなりました。とくに米国でそういう動きが盛んです。西洋医学の代わりを務めるという意味で「代替医療」と呼ばれています。
 
代替医療には種々雑多な治療法が含まれます。漢方、鍼灸、マッサージなど、既にある程度効能効果が認められて市民権を獲得しているものもあります。一方、カイロプラクティック、整体、温泉療法などは、医学的効果についての科学的評価が定まっていません。リラクゼーション、アロマセラピー、ヨガ、アニマルセラピー、絶食法、菜食法など、少数の熱心な支持者がいる一方で、一般にはまだまだ受け入れられていない治療法もあります。
 
残念ながら、代替医療には、有効性が明確に示されていないものが多く、玉石混淆の状態です。評価法が確立していなかったり、人によって効果に差があるなど、問題点が山積しており、残念ながらいまだ科学としての体を成していないことが多いのです。

病気と共存して体調を維持

代替医療はどれも、病気の原因を追求することは得意ではありません。その点では現代西洋医学のほうが圧倒的に優れています。
 
私の見るところ、代替医療が得意とするのは、いかに体調を良くするか、いかに病気とつきあっていくか、という点です。
 
代替医療のほとんどは、病気の原因そのものを取り除くことはできていません。しかし、免疫系の働きを高めたり、血流を良くしたり、痛み刺激を抑制したりすることによって、病気自体は治せなくともQOL(生活の質 =Quality of Life)を高めることに役立つと評価できます。
 
もともと人間の身体に内在しているシステムを活用することで、病気に伴う苦痛を減らし、より快適に生活できるようにするところに、代替療法の真骨頂がある、と私は考えています。

がんを例に比較すると

例えば、がんに対して、西洋医学は、手術で取り除く、抗癌剤や放射線でガン細胞を殺す、という方法を採ります。確かに完治する可能性もありますが、患者さんに苦痛を与える治療法でもあります。正常な組織も傷つき、体力は落ちてしまいます。
 
一方、代替医療では、がんそのものをやっつけることはできません。しかし、鍼で痛みを止め、漢方薬で免疫力を高め、リラクゼーションで心の平安を得ることはできそうです。がん患者の精神的な苦しみを癒したり、生きる意欲を引き出したり、体力を維持したりすることに寄与するでしょう。がんと共存し、残された人生をいかに苦痛なく、安らかに過ごすかという観点からは有意義な方法だと思えます。
 
進行したがんで治癒の望みが薄い場合、いたずらに抗癌剤を使うよりは、代替医療を採用したほうが良さそうです。ひょっとしたら、代替医療のほうが患者さんの生存期間を延ばす可能性だってあります。
 
ただし、西洋医学を拒否して代替医療に走れば、治るかも知れない早期がんを進行させて手遅れになってしまう危険もあるわけです。

代替医療は客観性に乏しい

代替医療が共通してかかえる問題点は、客観性に欠けることです。
 
例えば、長年感じてきた痛みに対し、ヨガをしたら痛みがとれて楽になったとしましょう。しかし、それが本当にヨガの効果なのかどうか疑問が残ります。科学的検証をして、きちんと根拠(エビデンス)を示すべきでしょう。
 
また、同じ症状を訴える人すべてに必ずしも効果が得られるわけではなく、どうしてある人には効き、ある人には効かないかがはっきりしません。そういう個人差に対して、十分納得のいく説明がされていません。

統合医療への流れ

西洋医学と代替医療は必ずしも相容れないものではありません。両者の優れたところを組み合わせ、それぞれ足りないところを補完しあうというのは、ごく自然な考え方でしょう。
 
がんの例で言えば、抗癌剤で治療しながら代替医療も用いる、ということも可能なわけです。
 
こういう考え方の医療を「統合医療」と呼びます。この場合、「代替医療」という用語は適切でないとして「補完医療」と呼ぶこともあります。
 
統合医療は、近年になってアメリカで注目されています。
 
実は、日本では、西洋医学による治療を受けながら鍼やマッサージを受けるなどということは日常茶飯事ですし、西洋医学と漢方の併用も日常的に行われています。これに対し、中国・韓国などでは西洋医学と伝統医学は別個のものとして扱われています。日本以外に保険で両方が同時に認められている国というのは見あたりません。
 
ある意味で、日本はもともと統合医療の先進国だと言うことができるでしょう。

2005.3