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川本眼科だより

川本眼科だより 138目薬の容器 2011年8月31日

目薬の容器には様々な形があります。製薬会社がいろいろ工夫をして開発をしているのですが、ユーザーの観点から使いやすいかどうかは別問題のようです。

今回は、各社の目薬容器をご紹介し、また、目薬容器に関してどんな失敗が起こりやすいかお話しいたします。参考にして下さい。

 

参天製薬の目薬容器

参天製薬は2002年頃「ディンプルボトル」という新容器を開発しました。2008年にはグッドデザイン賞を受賞しています。現在は参天製薬のほとんどすべての目薬でこの容器が使われています。

容器の横っ腹にくぼみをつけて押しやすくしているのが最大の特長です。高齢になると指先の細かい作業が難しくなるものですが、そういう高齢者にも好評です。キャップを上から見ると円ではなく十角形です。これは転がりにくくする工夫です。キャップの上面が平らなので外した時に置きやすいのもかゆいところに手が届く気配りと言えましょう。

ただ、国内最大のシェアを誇る参天だからこそあえて苦言を呈したいのですが、どの目薬も全く同じ容器で、識別する手がかりが色だけというのは問題です。

視覚障害者や色覚異常者に対する配慮を欠きます。すべて同じ容器にしたほうがコストダウンになるという事情はよく理解できます。

しかし、眼科の世界でトップシェアのリーダー企業にはそれなりの責任も伴うことを自覚して欲しいと思います。

千寿製薬の目薬容器

千寿製薬は現在目薬容器を新型に切り替えようとしている最中です。

その意図は参天のディンプルボトルに近く、点眼しやすさ、持ちやすさ、製品名の見やすさなどが向上しています。

従来型の容器も柔らかくて結構高齢者に好まれていました。(眼の真上に目薬を持ってこなくてもさせる利点がある反面、強く押すとたくさん出過ぎる欠点がありました。一長一短ですね)

現在、新旧の容器が混在し、他社が委託生産して販売だけ手がける目薬もあるため、千寿製薬は計5種類の目薬容器を使っています。参天製薬よりは区別をつけやすいのですが、将来新容器に統一されると識別する手がかりが色だけになってしまいそうです。切り替えが進む前に何らかの対策を望みたいところです。

万有製薬(今はMSD)の「愛・キャップ」

かつて万有製薬は「愛・キャップ」と称して、目薬のキャップの形状を目薬ごとに変えて製造販売していました。ハート形や星形など遊び心がありました。これは優れものだったと思います。

「色以外に識別のための情報を付加する」というのが色覚バリアフリーの大原則で、眼科医療に関わるメーカーとしての責任を果たしていると高く評価していました。

残念なことに万有製薬はシェリング・プラウと合併してMSD株式会社となり、その際目薬の販売権の多くを他社に譲り渡したのですが、その際に「愛・キャップ」のほとんどが廃止になってしまいました。MSDが販売を続けている数種類の目薬には今でもこのキャップが使われています。良いことなら他社も真似をすればよいのに・・

防腐剤ゼロを可能にしたPF容器・NP容器

目薬には普通防腐剤(ベンザルコニウムなど)が添加されています。角膜障害の原因になるので本当は使いたくないのですが、細菌の繁殖を防ぎ保存性を良くするためには必要なのです。

副作用を防ぎつつ保存性の問題を解決するために開発されたのが日本点眼薬のPF容器とわかもと製薬のNP容器です。どちらもフィルターを使って細菌の侵入を防ぐようにできていて、防腐剤を完全にゼロにすることを可能にしました。大手製薬会社に先んじた開発で「その意気や良し」と褒めてあげましょう。

ただ、製品としての完成度は今ひとつで、患者さんからは「出が悪い」と評判がよくありません。今のところ、角膜のために多少の不便は我慢していただくしかないようです。

目薬容器にまつわる失敗あれこれ

ドライアイに対して「ソフトサンティア」という目薬が使われます。この目薬のキャップの裏に針がついていて、最初にねじこむと穴があくようになっています。説明しておいても、キャップをねじこむのを忘れて「目薬が出ない」とあわてる人が必ずいます。驚くことには先端をハサミでちょん切る人もいます。もちろん不潔ですから絶対にしてはいけません。

抗生物質の目薬「ベストロン」や白内障の目薬「タチオン」などは分解しやすく不安定なために用時溶解といって「使い始めるときに薬を溶かす」という約束になっています。

ところが肝腎の薬を溶かさないで使う人がいます。そのため、すぐ使う場合は薬局で溶かしてくれるのですが、今度は「溶かすための開口部」をあけて目薬をこぼしてしまう、という事故が起こります。なるべく注意喚起はしておくのですが、忘れてしまったりうっかりしたりするのですね。同じ薬を前に出したことがあってもやっぱり失敗は起こります。

そんなわけで、私はできるだけ用時溶解の目薬を避けるようにしています。でも、ベストロンなど唯一のセフェム系抗菌点眼薬でして、ほかに取って代わる薬はありません。患者さんに十分注意していただくしかないのです。医師や薬剤師の説明はちゃんと聞きましょう!

2011.8