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川本眼科だより

川本眼科だより 275保険診療あれこれ 2022年12月31日

日本には公的な健康保険があり、そのおかげで病気になっても比較的安い負担で高度な医療が受けられます。世界的に見ればこういう制度は決して当たり前ではありません。費用の面で高度な医療は庶民には無縁という国が何と多いことか。

保険診療にはルールがあります。医療費が節操なく膨張するのを防ぐためですが、実際に保険診療に携わる医師の立場からすると「何で?どうして?」と言いたくなる変なルールも結構多くて、愚痴の1つもこぼしたくなります。

国民皆保険

日本では原則としてすべての人が健康保険に加入することになっています。「国民皆保険」と呼ばれる制度です。この制度は大変ありがたいもので、人々の健康を守る上でものすごく役に立っていると思います。

そういう制度のないアメリカでは、あんなに豊かな国なのに、高度な医療技術を誇っているのに、低所得の人は満足な医療が受けられません。民間の健康保険には保険料が高すぎて加入できないのです。加入していても、支払う保険料の額によって受けられる医療の内容は決まっていて、医師は常に患者がどんな保険に入っているかをチェックしながら診療内容を決めていきます。

金持ちだけが最善の医療を享受できて、貧乏人はまともに診てもらえないなんて、資本主義の一番悪い面を見せつけられている気がします。

幸い日本では、だいたい誰でも同じ内容の医療が受けられます。白内障の手術の仕方が、金持ちと貧乏人で違うなんてことはないのです。多焦点眼内レンズなど一部自費となる方式も導入されましたが、許容範囲でしょう。

健康保険未加入だと

健康保険に加入することは、国民の権利であると同時に義務でもあるので、加入していない人はいないはずです。ところが、実際には保険料が高すぎると言って未加入の人がいます。

確かに若いときには重い病気にかかることは少ないので保険料がもったいない気がします。でも、若くても病気やケガと全く無縁ではいられません。そういう緊急事態に無保険だと本当に困ります。

健康保険未加入の場合は、病医院にかかったとき自費で支払わなければなりません。この金額は無茶苦茶高いです。1回の診療で簡単に1万円札が飛んでいきます・・・

保険診療には制限がある

自費診療なら医師は自由に診療内容を決められます。診療費も自由です。患者さんさえ納得すればよいのです。

保険診療では決められた枠の中でしか診療できません。たとえ学会や論文で効果が証明されていてもダメです。相当に細かい決まりがあって、この検査は認めないとか、月1回だけとか、効くことが分かっている薬でも出せないとか、いろいろ制限されているのです。

例えば、コンタクトレンズを使っていると角膜内皮細胞が減ってくる人がいるので、年1回くらいはこの細胞の数を調べるべきなのですが、この検査は保険で認められていないので診療報酬は支払ってもらえません。そのうえこの検査だけ自費にすることもできません。保険診療と自費診療を混ぜて診療すること(混合診療)は禁止されているからです。

緑内障で眼圧が不安定な人の場合、受診のたびに眼圧を測るのは当然です。ところが眼圧測定が月3回以上になると保険審査で怒られます。そのためいちいち「〇〇の理由で頻繁に眼圧を測る必要があった」と診療報酬請求書に記載しておく必要があります。記載しても無制限ではありません。しばしば請求は削られてしまいます。

無料サービス

保険診療で認められていなくても必要な検査や処置はあります。そういう場合はやむを得ず無料サービスにしています。少しでも費用を徴収すると混合診療禁止のルールに抵触してしまいますが、無料なら構わないわけです。

当院では、月の制限回数を超えた眼圧測定、角膜染色検査、OCT、視野などは無料で検査しています。角膜内皮検査、自発蛍光撮影、OCTアンギオグラフィなども多くの場合無料です。

指導と監査

東海北陸厚生局は、厚生労働省の地方部局で、愛知県など東海北陸6県を管轄し、医療・健康・福祉などの政策を実施する機関とされています。ここが保険医療機関を取り締まる「お上」というわけです。各種の申請、届出、報告等はだいたいここが管理しています。

東海北陸厚生局には指導監査課という部署があります。

指導というのは管理医師の呼び出しです。生徒が職員室に呼ばれるみたいなものです。指導には(1)集団指導 (2)集団的個別指導 (3)個別指導の3種類があり、要するに(1)⇒(3)の順にだんだん厳しくなります。

診療1件あたりの平均点数が高い医療機関は自動的に指導の対象になります。高額な請求はけしからん、ということでしょうか。まともに正当な診療をしていても結果的に高額になることはありえるので、事情を斟酌しないで機械的に指導の対象にするというのは疑問があります。

監査は不正な請求があった場合に行われます。脱税に対する査察みたいなイメージでしょうか。私も詳しいことは存じませんが、監査の後には、保険医の指定取消、診療報酬の割増返還、医師免許の取消などが待っています。

幸い、私は個別指導も監査も受けたことはありません。きちんとルールに従い、そういうこととは一生無縁でありたいと願っています。

保険診療と自費診療

保険診療と自費診療の関係は複雑で、正直なところ私にも訳が分かりません。

健康診断は自費診療ということになっていますが、医療機関を受診して何か病気が発見されればそれは保険診療になります。

多焦点眼内レンズは「選定療養」とされ、レンズ代金だけ自費となります。選定療養は差額ベッド代とか紹介状なしに大病院に受診したときの特別料金などが該当します。眼内レンズをここに分類するのは異例で、これは実質的には混合診療だと思います。

交通事故では自動車保険で請求するので自費診療になりますが、そのときにドライアイの目薬を希望されたらどうするのか? 別々の疾患なら一連の診療行為としなくてもよいらしいですが、ではどちらの疾患にも行う検査は保険なのか自費なのか? いつも迷ってしまいます。なるべく患者さんの負担が少なくなるようにしていますが・・

(2022.12)