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川本眼科だより

川本眼科だより 286慢性眼瞼炎 2023年11月30日

眼瞼炎はまぶたの炎症です。高齢者に多く見られるのは、慢性化して、シカシカ、ショボショボと不快感が長期間続き、めやにや流涙を訴えるというケースです。失明するような病気ではありませんが、不愉快で、生活の質が低下します。

加齢が関係しているため、治療が困難で、いったん改善してもしばらくすると再発してしまいます。再発防止にはまぶたのケアを続ける必要がありますが、面倒くさく感じて習慣化する前にやめてしまう人が多いのが実情です。

複数の原因が関わっている

若い人の急性眼瞼炎では、原因は細菌感染かアレルギーか1つだけの場合が多く、単純です。細菌感染には抗菌薬、アレルギーには抗アレルギー薬かステロイドを使えばよいわけです。短期間で完治することも多いです。

高齢者の慢性眼瞼炎では複合的な要因がからんでいて、薬を使ってもぐずぐずと長引きます。少し良くなったと思っても、治療を中止すると短期間で再発することが多く、厄介です。

ステロイド軟膏は有効だが

炎症には原因の如何を問わずステロイドは有効です。慢性眼瞼炎にもステロイド軟膏はそれなりに効きます。まぶたに塗るので、目に入っても問題ない眼軟膏を使います。

だだ、ステロイドはあくまでも対症療法であり、原因を治療しているわけではありません。たいていの場合、治療を中止するとまた起こります。

ステロイドは感染を悪化させる危険もあります。また、ステロイド眼軟膏を長期大量に使用すると眼圧が上昇するリスクがあります。

細菌感染に抗菌薬を使っても

細菌感染が関与していることは多く、細菌培養してみると菌が見つかることもあります。

眼科では細菌感染にはキノロン系抗菌薬の目薬が圧倒的に多く使われています。広い範囲の病原菌に有効で、切れ味も良いからです。眼瞼炎にも治療によく使われていて、使えば多少はめやにが減ってそれなりに改善するのが普通です。

しかし、抗菌薬を中止すると再発します。それを何度も繰り返します。投与期間が不十分だったのでしょうか? 実際には、長く投与してみても結局再発することがほとんどです。

何度も再発を繰り返して、結果的にキノロン系抗菌薬の目薬を延々と長期投与、というのはありがちなのですが、これは好ましくありません。抗菌薬の使いすぎは耐性菌を生み出してしまうからです。今、キノロン耐性菌が増加していることが大問題になっています。失明の危険がある重大な感染症に抗菌薬が効かないのは困ります。

アジマイシン点眼液

キノロンの使いすぎを避けるために、私が最近よく使っているのがアジマイシン点眼液です。これは日本で唯一のマクロライド系抗菌点眼薬で、眼瞼への移行が良く、かつ長期間残留します。

眼瞼炎は病巣が比較的深い所にあり、目薬では表面には効いても深い病巣には届きにくいために再発しやすいと考えられます。アジマイシンの切れ味はキノロンに劣りますが、奥まで浸透し、長く残る分、効果が長続きすると期待されます。

アジマイシン点眼液を眼瞼炎に使う時は、最初2日間は1日2回、その後の12日間は1日1回さして中止します。薬が残留しやすいので、それ以上さし続けると副作用の心配があります。しばらく休薬すればまた使えます。

アジマイシン点眼液は粘り気が強くてどろっとしています。しみて痛かったり、充血したりしますが、害はなく、たいてい3~4日で収まります。点眼回数が少ないし、数日は我慢しましょう。

クラリスロマイシン内服

目薬ではどうしても治らないこともあります。内服薬は目薬では到達できない部位に効くことが期待できます。クラリスロマイシンは抗菌作用は劣りますが抗炎症作用を有するので、慢性眼瞼炎に使われています。比較的長期に使う必要があり、2週間~1ヶ月くらい内服します。

実際に使用してみると確かに結構効きます。ただやはり耐性菌の問題があるため、他の方法では治療が難しいケースに限って使っています。

同じ目的でミノマイシンも使われます。

マイボーム腺の異常

まぶたには「マイボーム腺」があり、油を分泌しています。この油は涙の蒸発を防ぎ、涙の状態を安定させ、潤滑油として摩擦を軽減しています。

加齢に伴い、マイボーム腺の調子がおかしくなります。時には油がラードのように固まってしまい、流れが悪くなって炎症を起こします。こういう状態をマイボーム腺機能不全と呼びます。

慢性眼瞼炎はマイボーム腺機能不全が関係していることが圧倒的に多く、2つの概念はイコールだと考える人もいます。私はマイボーム腺以外にも様々な要素が関わっていると考えています。

オメガ3脂肪酸(EPA・DHA)

オメガ3脂肪酸(EPAやDHA)はイワシやサバなどの青魚に多く含まれています。サプリメントにもなっていて手軽に摂取できます。

マイボーム腺の働きを良くすると報告されていて、脂質改善作用や抗炎症作用があるのだそうです。正直なところ、眼瞼炎にどの程度効果があるのか私にはわかりません。まだエビデンスが足りないと考えています。

ただ、EPAやDHAは体に必要な成分で健康維持に有用ということはよく知られていますから、のんで損はしないと思います。実は私自身も別の目的で毎日摂取しています。

まぶたのケアを習慣化しよう

高齢者では慢性眼瞼炎は起こりやすくなります。予防するには毎日のまぶたのケアが大事です。

お勧めは「朝晩2回、まぶたを5分以上温め、そのあと目のシャンプーで洗う」を習慣化することです。必要なケア用品はドラッグストアで売っていますし、当院外来にも置いてあります。よろしければ当院のナースがご指導します。

残念ながら、まぶたのケアのお話をしても、みなさん面倒くさがってなかなかやってくれません。指導しても短期間でやめてしまう人が多いです。

歯磨きみたいなものなので、短期間に劇的な効果が出るわけではありません。でも、歯磨きが虫歯予防に有効なのと同様に、まぶたのケアは慢性眼瞼炎予防に有効です。歯磨きだって面倒くさいはずですが、習慣になればしないのは気持ち悪い。習慣化するまで頑張って続けましょう!

(2023.11)