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川本眼科だより 141近視進行予防~最近の話題 2011年11月30日

最近になって、「なぜ近視になるのか」が解明されつつあり、それに伴って近視進行を予防するアイデアがいくつも出され、きちんとした医学論文として報告されるようになりました。

残念ながら、どの方法も近視進行を予防する効果は弱く、いまだに決定版と言えるような方法はないと考えています。しかし、近年近視関係の発見が相継ぎ、研究が非常に盛んになっているので、近い将来近視進行を予防する画期的な方法が登場するかも知れません。

ピントが網膜後方にずれていると奥行きが伸びる

最初はヒヨコでした。片目に凹レンズをかけさせて育てるとその目は近視になるというのです。その後網膜より後ろにピント(焦点)がずれていると奥行き(眼軸長)がだんだん伸びて近視になることがわかりました。同じ実験がいろいろな動物で試され、同じ現象が確認されました。サルでも同じだとわかりました。今では人間でも同じだと考えられています。

どうやら、生まれる時は少し遠視で、現実のものの見え方に合わせて奥行きを伸ばし、成長した時にちょうど正視になるよう調節しているらしいのです。この仕組みはまことに巧妙でうまく機能していたのですが、人類が子供の頃から近くばかり見るような環境で生活するようになると、過剰に働いてしまって近視を増やす結果を生みました。

ただ、人間はもともと水晶体の厚みを変えてオートフォーカスでピント(焦点)を合わせることができます。完全に網膜上にピントが合うならば、奥行きが伸びる仕組みは働かないはずです。

この点についてピントずれの原因は2つ考えられています。                              

(A) 調節ラグ 水晶体の厚みを変えるオートフォーカスは完全なものではなく、近くを見るほどピントを合わせきれず、本人も気づかない程度に若干ピントが網膜の後ろにずれています。

これを調節ラグといい、奥行きが伸びる主たる原因だと言われています。

(B) 周辺部の焦点ずれ 網膜中心ではピントが合っていても、周辺部ではずれてしまいます。特に近視になると眼球後方の中央が飛び出す形になるので、ますます周辺部では網膜の後方にピント(焦点)がずれる程度が大きくなって、さらに奥行きが伸びてしまうわけです。

最近登場した予防法は(A)(B)の原因を取り除くことで近視進行を抑制しようというのです。
 

近視進行を予防するメガネ

上記の理論に基づき近視進行抑制専用に設計されたメガネが登場しました。

Sola社のMC-PALは累進焦点メガネ(要するに遠近両用)です。近くを見る時に水晶体の厚みを変える必要が減り、結果的に (A)調節ラグが起こりにくいというわけです。

岡山大学は「確かに近視進行を抑制したが、抑制効果が小さすぎて実際の臨床で使う意味はない」と報告しています。(1年に0.9D進行するのを0.14D抑制)

※Sola社はその後(A)(B)の両方を防ぐ改良型MC-PAL2を出しました。

累進焦点メガネは鼻メガネになるなどずれた状態でかけても効果は出ません。高齢者の場合は位置が正しくないと見えないので自分で直しますが、子供はずれていても自分のピント調節力を使って見えてしまうので直しません。この問題に対策がされない限り実用化は難しいでしょう。

ツァイス社のMyovisionは(B)周辺部の焦点ずれを防ぐように設計されています。やはり岡山大学が治験を予定しているので結果を待ちたいと思います。

ただ、日本では「子供にメガネをかけさせたくない」のが親御さんのご希望ですから、近視進行を若干少なくする程度のために特殊なメガネを常用するのは受け入れにくいでしょう。

オルソケラトロジー

ハードコンタクトレンズで圧迫されると角膜のカーブは変形します。コンタクト裏面の形状を工夫して夜寝ている間に装着し続けると、角膜のカーブが平坦になって近視を軽くすることができます。この方法をオルソケラトロジーと言います。

「昼間メガネやコンタクトをしたくない」という人に役立ちます。ただ、高価、視力の出方が不安定、強い近視は対象外など問題があり、私は、ボクシングやラグビーなどの特別なスポーツをする場合に限りお勧めしています。

オルソケラトロジーには近視抑制効果があると言われていて、有効だったという報告はたくさんあります。角膜のカーブが平坦化すると (B)周辺部の焦点ずれが減るためだろうと推測されています。実は中国・韓国では使っている患者の大半は近視抑制目的の子供だそうです。

日本では残念ながら2009年の日本眼科学会ガイドラインにより適応を20歳以上に限定しています。つまり、現在日本では近視抑制には使えないのです。2009年までは医師の判断で使えたのですが。

アトロピン治療の再評価

昔から調節麻痺剤のアトロピンを点眼し続けると近視進行を遅らすことができる事実は知られていました。アトロピンが効いている間はまぶしいしピントが合わなくなって生活に支障をきたすため、日本では短時間で効果が切れるトロピカミドが使われますが、効果ははっきりアトロピンのほうがまさっています。欧米ではピレンゼピンの目薬/眼軟膏が使われます。

この治療法も近年再検討されました。昔は単純に「ピント調節する筋肉を休ませる」と言われていたのですが、現在は「奥行きを伸ばす仕組みに関係する受容体をブロックする」と考えられています。なぜ効くのかよくわからなかった薬の効き方が理論的に説明可能になったのです。

台湾ではアトロピンを20倍に薄めた目薬を予防に用いる方法が一般化し、この治療法導入後は高度近視の有病率が低下したと報告されています。(サングラスが必要になるのが難点)

携帯ゲームはしない/本は30cm離して読む

昔、親たちは「姿勢を正して本を読みなさい」「字を書く時あまり目をくっつけるな」と口やかましく注意しました。

その後「近視は遺伝でほとんど決まる」と考えられ子供にあまり注意しなくなりました。最新理論からすると私の親の世代のほうが正しかったわけです。

調節ラグを防ぐには見るものとの距離をなるべく離すことが重要です。携帯ゲーム機を10数cmの距離で長時間使うのはやめましょう。大きなテレビに映して離れて操作するゲーム機なら問題ありません。NINTENDO DSは駄目でWiiならOKというわけです。

本を読まないわけにはいきませんが、20cmと30cmでは調節ラグの起こり方が全然違います。寝転がって読むと距離が近くなりがちですから、机に向かい姿勢を正して本を読むのがお勧めです。部屋の明るさ自体は近視と無関係のはずですが、暗いと読む距離が近くなりがちですから適正な明るさは必要です。