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川本眼科だより

川本眼科だより 77充血をとる目薬のワナ 2006年7月31日

「充血をとる」効果をうたった目薬には、たいてい血管収縮剤が含まれています。
 
血管収縮剤をむやみに使用することには問題が多く、お勧めできません。ふだん使う目薬は、血管収縮剤を含まないほうがよいのです。

充血をとる目薬

薬局に行くと、目薬がたくさん並んでいます。その中には、「充血をとる」効果をうたったものがたくさんあります。
 
そういう薬は、さしてみると確かに目が白くなります。なんだか効いたような気もしてきます。
 
こういう目薬には、たいてい「血管収縮剤」という成分が入っています。点眼すると、血管を強制的に収縮させるので、充血が引き、赤かった目が白くなります。
 
血管収縮剤には、塩酸ナファゾリン、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸フェニレフリンなどがあります。成分表示で確認して下さい。

見かけだけ白くなっても

血管収縮剤は、市販の薬にはよく使われている成分です。5~6種類の成分が混合してあって、その中の1種類が血管収縮剤というのが一般的です。しかし、実は眼科医が処方する目薬にはほとんど入っていません。(たまに使う時でも血管収縮剤単独の目薬が使われます)
 
なぜかというと、血管収縮剤は見た目だけ充血をとる薬で、病気そのものを良くしているわけではないからです。
 
例えば、結膜炎になったときのことを考えてみましょう。結膜炎で目は充血しています。ここに血管収縮剤をさせば、赤かった目は白くなります。でも、決して結膜炎が治ったわけではなく、治療にはなっていません。結膜炎を治すには、本来、細菌に対して抗菌剤を使ったり、炎症を抑える薬を使ったりしなければなりません。でも、血管収縮剤にそんな作用はありません。
 
血管収縮剤で充血がおさまると、病気が治ったと誤解してしまうかも知れません。結膜炎の炎症の程度は充血の程度を見て判断することができますが、血管収縮剤を使ってしまうと、炎症の程度が判断できなくなってしまいます。
 
つまり、血管収縮剤は、炎症性の病気に対してむやみに使わないほうがよいのです。
 
見かけだけ白くなっても、病気が治っていないのでは意味がないと思いませんか?

リバウンド

しかも、血管収縮剤を連用していると、薬の効果が切れたときに、かえって充血してしまうという現象がおきます。このことを「リバウンド」と言います。
 
充血するので、充血を取ろうとして血管収縮剤をさす→効果が切れたときもっと充血する→充血を取ろうとして血管収縮剤をさす→・・・・
 
こういう悪循環がおこって、いつも目が充血している人もいます。こういう場合、常用していた市販の目薬をやめるだけで、充血がほとんど解消してしまうこともあります。
 
眼科医は、リバウンドを避けるため、なるべく血管収縮剤を使わないのです。

目薬を売るために

今まで述べたことは専門家には常識で、製薬会社も当然知っています。ではなぜ市販の目薬の多くに血管収縮剤が使われているのでしょうか?
 
理由は、結局「目薬をたくさん売りたいから」ということに尽きます。
 
目薬を使う人は、性急に結果を求めます。2~3日で効果が現れないと、「この薬は効かない」と決めつけてしまいがちです。
 
目薬に血管収縮剤が入っていると、「目薬をさし始めたら充血が取れた。効いている」と判断され、使い続けてもらえるわけです。
 
さらに、リバウンドをおこせば、製薬会社にしてみるとさらにたくさん目薬を買ってもらえることになります。
 
もちろん、それほど意図的でないのかも知れません。製薬会社の論理は「売れている目薬は良い目薬」です。血管収縮剤を使った目薬がたくさん売れれば、その目薬は残ります。逆に血管収縮剤を使わない目薬は、不人気となり、売れなくて消えていきます。そういうことが繰り返されて、結果的に血管収縮剤を含む目薬だけになってしまったのだろうと思います。要するに、ユーザーの選択の結果とも言えるのです。

賢い患者になるために

血管収縮剤は、それほど危険な薬ではありません。人前に出るとき、目が赤いと困ります。そんな時には便利な薬でもあります。私も、たまに処方することがあります。要は薬の効き方を理解し、限界をわきまえていればいいのです。
 
そうはいっても、目の前にあればつい手が出てしまうのが人情でしょう。
 
それに、眼科を受診する前に使用すると、症状が隠されて、正しい診断ができなくなる危険も考慮しなければなりません。
 
そもそも、疲れ目などで充血するのは自然の生理で、無理やり充血を取る必要は全くありません。
 
そんなわけで、血管収縮剤を成分に含んだ目薬は、できるだけ買わないことをお勧めしたいと思います。

2006.7