川本眼科

文字サイズ

小 中 大

川本眼科だより

川本眼科だより 140レーシックの現状 2011年10月31日

レーシック(近視手術)は増え続け、今では 米国で年間150万人、日本で年間50万人、韓国で年間30万人が受けていると推計されています。 ※今は東日本大震災の影響で一時的に減っています。

さて、近視の手術を真剣に検討しようとすると困った事態に直面します。インターネット等で調べても業者の広告宣伝ばかり多くて情報の信頼性に疑問符がつくのです。

も し私がレーシックを受けるなら価格では決めません。一生のことですから。目に見えない医療安全対策にお金をケチっているかもしれないですし。それに必ず角 膜専門医に手術しても らいます。難しい角膜疾患の時に他の眼科医が頼るくらいの人ですね。そうでないと術後管理 が不安です。そもそも角膜移植ぐらいしたことのある眼科医でないと角膜専門医とは言えませ ん。レーシックだけ何万例やっていても角膜専門医にはなれないのです。白内障手術も上手で 有水晶体眼内レンズや多焦点眼内レンズなど他の選択肢を持っていることも条件です。

固定費が高いが故の患者争奪戦

レーシックの世界では激しい低価格競争と仁義なき患者集めが繰り広げられています。

レーシックに用いるエキシマレーザーは高価(?千万円)です。しかも次々に新機種が出るので 競争上数年で更新が必要です。手術してもしなくても高価なガスを消費し続け維持費も高額です。 つまり、固定費の比重が大きく、一方、収入は手術件数に正比例します。こういう収支構造だと、 手術件数が少なければ赤字で、ある程度手術件数が多くなると収支が均衡します。この手術件数 を損益分岐点といい、損益分岐点を上回ると黒字になり、後は件数が増えるほど儲かります。

つまり、患者を大量に集めさえすれば何とかなるわけです。そこで「大量宣伝と低価格により 大量集客する」というビジネスモデルが考えられ、美容外科業界がレーシックに参入しました。 有名なところでは品川美容外科を母胎にした品川近視クリニック(綿引院長は美容外科医で眼科 は門外漢です)とか、美容外科の神奈川クリニックを母胎にした神奈川クリニック眼科がありま す。 ※2010年に一度倒産し、現在は経営母体が変わり、名前も「神奈川アイクリニック」になりました。

美容外科系の戦略は当たりました。適応だのリスクマネジメントだの安全性だの術後管理だの は一般の人にはわかりにくく、きれいな待合室、ホテルのようなおもてなし、高級感のほうが訴 求力があります。そして何より低価格です。美容外科系は大量集客に成功したのです。

手術の腕は不要?出来上がりに差は出にくい

レーシックは機械に大部分を任せてしまう手術です。角膜フラップの作成にケラトーム(刃物) を使っていた時にはある程度腕が関係しましたが、フェムトセカンドレーザーを使うようになっ てからは医者の腕が手術の出来に影響する余地はきわめて少なくなっています。

ですから、どの施設で受けても結構出来上がりはきれいです。それなら安い方がよいのでしょうか? 確かにうまくいくことも多いのですが、しかし問題点はやっぱりあるのです。手術しな い選択肢も含めて近視矯正方法のマネジメントをきちんとしてくれるかどうかが重要です。

他の矯正方法が望ましい人にまで

低価格を実現するためには大量集客よりなく、そのためには「客を逃がさない」ことが必要です。そのためレーシックより他の近視矯正方法が望ましい人にまで手術を勧める傾向があります。

例えば、角膜が薄くて危険でも適応を甘くして手術してしまうケース。長期のパソコン作業を仕事とするなど近視のほうが生活に便利と考えられる人にまで手術を勧めるケース。高度近視で はレーシックより「有水晶体眼内レンズ」のほうが良い視機能を得られるのに、そういう方法が あることの説明は全くしないケース。白内障が少し出ている中高年ではレーシックよりも「多焦 点眼内レンズ」の適応なのに、そのことは言わずに黙ってレーシックをしてしまうケース。

やっぱり、レーシック業者である前に眼科医でなければいけないと思うのです。若い眼科医がたいして眼科のトレーニングを積まないうちに高給でレーシック業界に取り込まれて、眼科医と しての魂を売り渡しているような姿を見ると情けなくなります。

過矯正にしてしまうクリニック

レーシック施設の患者集め競争の弊害の1つが「術後過矯正が多い」という問題です。これは 裸眼視力偏重主義が原因です。「レーシックを受けたらメガネ不要になって裸眼で視力が○○出 た!」なんて宣伝のせいで、裸眼視力が良くなることが最大の価値だと誤解されているのです。

普通は5m視力(遠方視力)を測ります。若い人なら5m視力が良ければ近くまで全距離見えます。でもピントの調節力は歳とともに衰え、40歳代で手元が見えづらくなります。30歳代で も長時間近くを見続ける作業が続く場合、少し近視のほうが断然楽です。近視だと裸眼視力は悪くなりますが、現代人の生活では少し近視のほうが便利だし目も疲れないことが多いのです。

裸眼視力を良くするためには、正視を狙います。ただ、どうしても少し誤差があって狙いとずれることがあるのですが、その時近視側にずれるより遠視側にずれたほうが5m視力は高く出ま す。(30cm視力は近視のほうがよい) 術後裸眼視力の出方を宣伝材料にしていると、ここで少し 遠視気味を狙う誘惑に駆られるわけです。集客第一という上からの圧力もあるでしょうし。

過矯正で遠視になると患者さんはつらいです。近視の状態に脳が慣れていますから。もともとメガネをかけたくなくて手術したのでしょうから、絶対に老眼鏡はかけたくないという方が多い のでなおさらです。目が疲れ、ショボショボし、目の奥が痛くなりますし、時には頑固な頭痛に 悩まされ、ひどくなると吐き気まで起こします。うつ状態になる人もいるそうです。

アキュフォーカスはやめてほしい

最近気づいたのですが、中年以降にレーシックを受け入れてもらうためにアキュフォーカスと いう方法が宣伝されています。カメラインレーなる中心に穴をあけたリングを入れてピンホール 効果による老眼対策を狙っています。これ、私はお勧めしません。片眼のピンホール効果ではそ れほどよい近見視力が得られるとは思えないし、実際満足される人は3割程度だそうです。それならモノビジョン法のほうがはるかに成績が良い。

それにこんなものを挿入したら眼底観察や手術の邪魔になってしまいます。老眼が始まった人はこれから眼底疾患が増えるというのに・・ これを入れる医師は自分で眼底疾患のケアをする わけではないので「後のことは知らないよ」なのでしょうが、無責任だと思います。