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川本眼科だより

川本眼科だより 210コンタクトと妥協 2017年7月30日

先日、コンタクトレンズ学会に参加して勉強してきました。(眼感染症学会、眼炎症学会、涙道涙液学会と共催) 正直なところ、臨床関連では目新しい話題は少なく、コンタクトに伴う問題点は今も昔もさほど変わらない気がします。

現在のコンタクトは、残念ながらすべての人の要望に応えられるわけではありません。妥協して折り合いをつけていくことが必要です。

(コンタクトの新規処方は中止しています)

使い捨てソフト全盛の時代

今やコンタクトと言えば「使い捨てのソフト」という時代です。それも2週間タイプと1日タイプにほぼ集約されました。薄く柔らかく圧倒的に装用感が良いこと、レンズケアが最小限で済むことが理由です。

確かに使い捨てソフトは快適で便利ですが、あまりにも集中しすぎて、それ以外のコンタクトが発売中止になったり、ハードの開発が止まってしまったり、弊害も起こっています。

遠視用や強度近視用がない

使い捨てコンタクトは大量生産品であり、当然需要に応じて採算を考えて生産されます。一般に軽度~中程度の近視の方が多いので、その方々向けのコンタクトなら豊富に用意されます。しかし、遠視用や強度近視用は需要がきわめて少ないので、なかなか生産してもらえません。

用意されている度数範囲を超えると、使い捨てソフトはあきらめるしかありません。弱い度でも妥協するか、あるいは、メガネやハードを使用することになります。

乱視用も全員に対応できない

ハード・コンタクトには角膜乱視を矯正する力があります。軽度の乱視なら、わざわざ乱視用のレンズを使わなくても大丈夫です。

使い捨てソフトはレンズが柔らかく薄いので、角膜の形状がそのまま残り、乱視が矯正できません。そのため、ソフトの場合は乱視用のレンズを使う必要があります。

ところが、実は乱視用の度数はすべて用意されているわけではないのです。若い人では圧倒的に直乱視が多く、高齢者は比較的倒乱視が多いのでそれに対応する度数は用意されていますが、需要の少ない斜乱視のレンズはないことが多いのです。

結局、既製品の中からなるべく目の状態に近い度数を選ぶわけですが、ぴったりとは合いません。妥協するしかありません。

メガネなら5度刻みで細かく合わせますから、こんなことはありません。大きな違いです。

「遠近両用+乱視用」はない

45歳くらいから老視の問題が起きてきます。老視対策の1つとして遠近両用コンタクトの使用も選択肢になるはずです。

ところが、残念なことに「遠近両用+乱視用」という使い捨てソフトは存在しません。需要が少ないからだと思います。乱視用使い捨てソフトを長年使ってきた方にとっては困った事態です。

老眼になったら

結局、妥協して、別の方策を考えるしかありません。メガネで構わなければ、遠近両用のメガネを使うのが一番簡単な方法です。

理由があってメガネが使いたくない場合はどうしましょうか。近視用の度数を落として対処するのが1策です。でも車の運転をする方だとあまり弱くするわけには参りません。左右で度数を変える方法、片目は単焦点の乱視用コンタクトで反対側は乱視なしの遠近両用にする方法などありますが、必ず上手くいくわけではありません。

低矯正に慣れること

コンタクトの度数を完全矯正にすることを好む方がいらっしゃいます。「クリアに見えること」が大好きで、少しでも見え方が落ちると満足できなくて、すぐに度数を変更し、結果的に度数が少し過矯正気味になっていることが多いです。

実は、近視で完全矯正好きな人はあまり幸せになれません。20歳代の若いときなら問題ありません。でも年齢とともに必ずピントの調整力は衰えていきます。5m視力を基準にレンズの度数を決めていると、次第に近方にピントが合わせ続けるのが困難になり、目が疲れやすくなります。

老視になると、すべての距離を鮮明に見ることは諦めて妥協するしかありません。遠近両用コンタクトは遠くも近くもピンボケで妥協が必要です。モノビジョン法(左右眼を遠方用と近方用に使い分ける方法)も完璧を求める人には向きません。

乱視の方も、コンタクトでは完全矯正は難しく、見え方を妥協する必要があります。

近視の方は、初めからコンタクトの度数を少し低矯正気味(=少しピンボケ)にしておくことをお勧めします。そもそも、裸眼で生活している人の大多数は、完璧な正視ではなく、少し近視だったり遠視だったり乱視だったり、要するに少しピンボケ状態で生活しています。それで別に生活に困りません。脳はその状態に適応し、慣れるものなのです。ただ、脳が慣れるには少し時間がかかります。だから最初から低矯正に慣らしたほうが良いのです。

妥協して既製品の中から選ぶ

使い捨てソフトは既製品です。既製服を選ぶ場合を考えて下さい。供給されるサイズは限られていて、標準的なサイズの人には豊富な選択肢がありますが、特殊なサイズの人は服の種類が選べなかったり、少しサイズが合わなくても我慢して着るしかなかったりします。

これがハードならセミ・オーダーで度数の選択肢は広がります。でも、装用感は悪いです。

メーカーの供給責任

コンタクトは「ものを見ること」に不可欠な製品で、嗜好品とは違います。メガネでは代替できないこともあるのです。

コンタクト・メーカーは、その点を認識し、商売の都合や採算だけを考えず、きちんと様々な度数を揃える努力をしてほしいと思います。それが供給責任というものです。

すべてのコンタクトで対応することが無理でも、1種類のコンタクトだけは特殊な度数も揃えるということなら可能ではないでしょうか。あるいは複数のメーカーで協力し合って、A社は乱視の度数を揃える、B社は遠視用の度を揃える、C社は遠近両用+乱視用のコンタクトを出す、といった取り組みができないものでしょうか。

患者さんがなるべく妥協しなくてもすむように、メーカーの努力が求められるところです。それはカラーコンタクトの色の種類を増やすより、はるかに大事なことです。
(2017.7)