院長のつぶやき 色覚異常検査中止10年 2013年10月9日
学校での色覚異常検査は2003年に中止された。
名古屋市の高柳康世先生が強く主張されたことが大きい。
高柳先生は「闘う女」だった。その行動力には敬意を表する。
講演し、本を著し、マスコミに登場し、厚生省に働きかけた。
その政治力を駆使して検査中止を実現させた。
なぜ色覚異常検査は中止されたのか。
検査が社会的差別を招いているというのが理由だった。
理系の大学が軒並み門戸を閉ざしていた時代もあった。
実験のとき呈色反応がわからなくて困るというのだが、こじつけだ。
その後制限がほとんど撤廃されても実は困ることはほとんどなかった。
こういう無意味な制限を「検査しない」という強硬手段で打ち破ろうとしたのだと私は理解している。
ただ、さすがに検査中止は行き過ぎだったと思う。
色覚異常の人が、その事実を知らずに世の中に出ていくことになるからだ。
事実を知っていれば回避できた問題に直面して本人が困ることになる。
もちろん重度の異常なら当然気づく。
しかし、軽度の場合は本人や家族も気づかないことがある。
気づかずにいるとどんなことが起こるか。
例えば、絵を描くとき、服を買うとき、特異な色を選んでしまう。
周囲が色覚異常に配慮してくれないために、悩んでしまう。
色の識別が重要な職業に就いてしまい、仕事に支障をきたす。
自分が色覚異常だと理解していれば対策が取れた可能性がある。
当時も今も、私は学校で色覚検査を実施すべきだという立場だ。
基本的には遺伝で決まるから、一生に1回だけ受ければよい。
確かに、色覚異常がいじめや差別の原因にはなりうる。
だから、他人に知られることを望まない人には配慮が必要だ。
学校で検査するときは、一人ずつ個室に入れて検査することが望ましい。
結果の通知もそれぞれの家庭に郵送で届けるのがよい。
手渡しでは、異常があると公表しているようなものだから。
ただ、色覚異常の存在は別に恥ずかしいことではない。
数あるハンディキャップの1つに過ぎない。
隠すことのできないハンディキャップもたくさんある。
他人にも事実を伝えたほうが物事がスムースに運ぶことも多い。
高柳先生の志は高かった。だが、方法は誤ったと思う。
色覚検査はきちんと実施する。
そして、色覚異常者が胸を張ってその事実を口にできる社会を作る。
検査をしないこと、隠すことはかえって問題解決を難しくしている。
色覚検査を再び学校で実施することに、私は賛成する。
(2013. 10.9)