院長のつぶやき 「医者に殺されない47の心得」を読んだ 2014年1月29日
近藤誠氏の著作は昔ずいぶん読んだ。
売れていると聞いて久しぶりに読んでみた。
残念ながら、主張に新味はない。
同じ主張を焼き直してたくさん本を出しているだけだ。
同意できる点は一部にある。
ただ、正しいことの中におかしな主張を紛れ込ませている。
おかしな主張のほうがどんどん肥大してしまっている。
もはや科学とは言えず、新興宗教のようだ。
末期癌では手術や抗癌剤より放置したほうがよいかも知れない。
私も、自分が癌になって治る可能性がないと判断したら、放置する。
体力を維持して、その間にできることをして人生を楽しもうと思う。
(なかなかそのように割り切ることができないのが人間だが)
しかし、治るはずの初期癌に放置を勧めるのは犯罪に近い。
氏の本を読んで治療を拒否して手遅れになる人が出るに違いない。
「がんもどき」理論は論拠に乏しく、単なる思いつきの域を出ない。
近藤氏は乳がんの縮小手術を普及させたと言って自慢する。
あれ? がんもどき理論が正しければ放置すべきでしょう?
乳がんだけはがんもどきでなく本当のがんなのだろうか?
近藤氏は子宮がんはステージによらず放射線治療がよいと言う。
あれ? がんもどき理論が正しければ放置すべきでしょう?
放射線だって副作用はある。がんでないなら使うべきではない。
子宮がんだけはがんもどきでなく本当のがんなのだろうか?
これらの記述は、がんもどき理論を自ら否定しているに等しい。
この人は現在ちゃんとした臨床研究をしている訳ではない。
だから主張の根拠はすべて他人の研究。
だが、その引用の仕方があまりにも恣意的。
自分の主張に都合の悪いデータはことごとく頭から否定する。
主張に都合の良いデータだけを拾い集める。
そういうやり方をすれば、結論はいかようにもねじ曲げられる。
他の医師を「製薬会社から金をもらって嘘を言っている」と非難する。
反対者にレッテルを付けて排除し出したら、眉唾と考えたほうがいい。
正面からの反論ができなくなっている証拠だから。
専門のがん治療以外では、議論がもっと粗雑になる。
大規模臨床試験の結果を何の根拠もなく否定する。
否定する科学的根拠はどこにも書いていない。
単に「医者は儲け主義だから信用できない」と言うだけ。
エビデンスのない仮説を売れれば良いと素人向けに書きまくるのも、
儲け主義の相当にうさんくさい商売だと私は思うが。
(2014. 1.29)