院長のつぶやき 患者様って変な言葉 2007年5月15日
京大病院が「患者様」という呼称を廃止するそうだ。
朝日新聞によると、「違和感がある」「馬鹿にされている感じがする」という
声を受けての決定だという。
国語学者の金田一春彦氏が「患者様という言葉はおかしい」と著書で
指摘したことが見直しのきっかけらしい。
私も、「患者様」という言葉が使われ出した当初からうさんくささを
感じていた。
慇懃無礼で相手を近づけさせない冷たさを感じる。
それに、なんだか「いらっしゃい、いらっしゃい。こちらの商品は
いかがですか」と揉み手をしながらお客を呼び込んでいる商人の
においがする。
私の記憶では「患者様」なる言葉を提唱したのは接遇コンサルタントと
言われている人たちだった。この人たちは、もともとホテルマンや
客室乗務員などサービス業のプロで、自分がいた業界の考え方を医療にも
導入しようとした。
確かに古い医療人に斬新なものの見方を提示した功績はあるが、
一方で医療の特殊性を誤解ないし軽視していたことは否めない。
そもそも、医師がそんなにへりくだり、卑屈な姿勢を取ることが
よいことなのかどうか。
医療は他のサービス業とは違い、患者さんが嫌がることや避けたいことでも
受け入れていただかなければならない。時には説得したり、
叱責したりすることも必要なことがある。
「良薬は口に苦し」と言う。苦い良薬を飲まなければ治らないのに、
「患者様=消費者は神様」だとして「そんなことを押し付けてはいけない」と
いうことになったら治療はできない。現実に、今それに近いことがあちこちで
おきている。
患者が上で医師が下という関係では、医療は成り立たないのだ。
基本的に、患者と医師は対等な立場で向き合い、医師が専門家として
助言や指導をするというのがあるべき姿だろう。
「患者様」という言い方は発想の根底で間違っていると思う。
京大病院の英断にエールを送りたい。
(2007.5.15)