院長のつぶやきまぶたが腫れる食物アレルギー
アルコンのサマーセミナーに参加した。
島根大学皮膚科の千貫(ちぬき)祐子先生の話が面白かった。
「茶のしずく石鹸」で小麦アレルギーが起きたというニュース。
ひと頃ずいぶん話題になった。
千貫先生はこのアレルギーを解明した人。
にこやかに、でもとても明晰な語り口の講演。
講演は医師向けなので基礎的な話は常識として触れない。
そこで、一般向けに基礎知識を補いながら講演内容を紹介する。
アレルギーは異物が体内に侵入することで「感作(かんさ)」される。
主にタンパク質が原因となる。
侵入から感作の成立まで10日くらいかかる。
いったん感作されると、次に同じものが侵入した際に過剰な反応を起こす。
これがアレルギー反応である。
食事の場合は普通タンパク質を摂取しても感作されない。
動物の肉を食べても普通アレルギーは起こさない。
小麦にも米にもタンパク質は含まれる。
でも、小麦でできたパンやうどんを食べてもアレルギーは起こさない。
ところが、タンパク質が皮膚から吸収されると感作されやすい。
まぶたの皮膚は薄くて柔だから異物が侵入しやすい。
手の皮膚では感作されにくいが、まぶたでは感作されやすいのだ。
茶のしずく石鹸には小麦加水分解産物が含まれていた。
これがまぶたの皮膚から吸収されて感作を起こした。
その結果、小麦による食物アレルギーを起こすようになってしまった。
実は食物由来の成分が含まれる石鹸、シャンプー、化粧品は多い。
今回と同じような問題が起こっている可能性は高いという。
ただ、感作の頻度は高くないので、気づかれていないと考えられる。
茶のしずく石鹸は大ヒットだったので、たまたま問題化したらしい。
そもそも使っていても発症する確率は0.1%に満たない。
あまり数多くのシャンプーや化粧品を次から次に試していると、
こういうアレルギーを発症する不運に見舞われるかも知れない。
自分の定番を決めて浮気しないほうが安全だ。
皮膚で感作された場合、食物を消化管を通して吸収した場合でも、
最初に感作した皮膚にアレルギー反応が強く出る。
すなわち、感作されやすいまぶたが腫れることが多い。
まぶたが腫れた場合、食物アレルギーの可能性もあるというお話。
さらに、花粉で感作されることで食物アレルギーを起こすこともあるという。
花粉にも食物にも共通のタンパク質が含まれている場合がある。
完全に同一でなくても類似性が高ければ起こりうる。
ハンノキ/シラカバの花粉症→リンゴ、桃、梨、サクランボ等のアレルギー
ヨモギの花粉症→ニンジン、メロン、リンゴ、キウイ等のアレルギー
ブタクサの花粉症→バナナ、スイカ、キュウリ等のアレルギー
カモガヤの花粉症→メロン、スイカ、トマトのアレルギー
イネの花粉症→メロン、スイカ、トマト、オレンジのアレルギー
眼科医の私は知らなかった。
眼瞼浮腫が食物アレルギーで起こる可能性を心に留めておこう。
(2015. 8.23)
院長のつぶやき近視抑制法とその効果
各種の近視抑制法はどの程度効果があるものか。
報告は多いが論文によって差が大きく、報告の信頼性に疑問があったりする。
だから正確な比較などできない。
それを承知で、一応現在までに提唱されている方法を比べてみた。
以下、私が近視抑制効果が強いと判断した順に挙げる。
1.オルソケラトロジー
たぶん、最も効果がありそうだ。中国の富裕層で流行っている。
でも勧めない。角膜を傷つけ、感染を起こすリスクがあるから。
学会のガイドラインは20歳以上。現実には子供に使われているが。
お金もたくさんかかる。
2.屋外で太陽光を浴びて1時間以上過ごす
意外にも、これが相当に有効のようだ。
サッカーでも野球でも外で遊ばせておくとよい。
でも、現代の子供たちの生活では結構難しいのかも・・
3.低濃度アトロピン
期待したほどではなかったものの、私の経験でも有効だと思う。
効果が弱くても1日1回させばよいという手軽さが素晴らしい。
ちなみに、ミドリンの点眼では残念ながらほとんど無効のようだ。
4.累進焦点メガネ
岡山大学の臨床研究で効果は実証された。
でも、示された効果はあまりにも少なかった。
メガネをかけていない子供にわざわざかけさせるほどの意味はない。
必要に迫られてメガネをかける際に累進にしておく手はあるかも。
なお、以上のどの方法とも必ず併用すべき近視抑制法がある。
それは何の作業をする際にも30cm以上の距離を取ること。
(スマホや携帯ゲームでは15cmくらいになっていることが多い)
近くを見る作業を30分以上連続で続けないことも推奨される。
(2015. 8.10)
院長のつぶやき新規のコンタクト処方を中止
川本眼科では新規のコンタクト処方は中止することにした。
ただし、従来からコンタクト診療で受診中の方には処方を継続する。
レンズの種類や度数の変更にも対応する。
つまり、急にコンタクト診療をすべてやめるわけではない。
ただ、新規がなくなれば長期的には徐々に減っていくと予想される。
自然減の末に、患者さんに迷惑をかけずに撤退するのが最善だ思っている。
コンタクト使用者は、比較的若く、仕事や学校が忙しい方が多い。
2時間待ちなんて我慢してはいただけない。
あまりに待ち時間が長すぎて怒って不機嫌になる。クレームになる。
謝罪を繰り返していたが、そもそも無理があると思った。
また、コンタクトは装用開始時の説明や装用練習に時間と人手を取られる。
それだけのマンパワーがあればいいのだが、正直余裕は全くない。
かなり無理をしているのが実情だ。
手間暇をかけても、お試しだけで終わったり、ネットで購入したり・・・
ずっと長く継続して通院される方は少数で、正直虚しいものがある。
コンタクトに取られてきた人手と時間を眼疾患の診療に振り向ける。
診療体制の再構築である。
コンタクト専業店と隣接眼科の組み合わせはたくさんある。
だから、川本眼科がコンタクトから撤退しても困る人はあまりいない。
そういうところなら、土日もやっているし、そんなに待たされることもない。
コンタクト使用者にとっても川本眼科にとっても利点が多い。
それから、もう1つ理由がある。
「コンタクトレンズ検査料」という診療報酬があまりに不合理なことだ。
コンタクト診療をやめればこんな不合理な規則に振り回されずに済む。
私には理解できなくて正直困っていた。今はほっとしている。
(2015. 7.13)
院長のつぶやき18歳の権利と義務
18歳から選挙権を与えることに決まったそうだ。
20歳のまま変える必要はなかったような気がするが、反対はしない。
何歳から大人として扱うかは社会的・歴史的な条件が大きく影響する。
平均寿命が短く、若いうちから自分で稼ぐ社会では成人になるのが早い。
独り立ちも早いし、結婚するのも子供を作るのも早い。
そういった社会では16歳くらいで大人として扱うのが妥当だろう。
若者の大多数が大学に行き、自立が遅い社会なら、22歳でもおかしくない。
15~25歳くらいの間なら何歳に決めることも可能だと思う。
ただ、権利と義務は表裏一体のはずだ。
権利を持つということは、それに伴う責任も背負うということ。
18歳で選挙権を与えるなら、18歳、19歳は少年法の保護から外すべきだ。
選挙権を与えるのは大人としての分別をわきまえ、正邪を判断できるからだろう。
それなら、犯罪を犯したときに「まだ子供だから」と保護するのはおかしい。
飲酒も18歳で可能にすればよい。大学生になったら飲酒も黙認されているのが実態。
(喫煙のほうは害がはっきりしているので同列には論じられない)
全部ひっくるめて18歳を成人と決めるのが合理的だと信じる。
18歳を成人と決め、成人式は今まで通り20歳ではどうだろう?
(2015. 6.17)
院長のつぶやき豚レバーの生食禁止
30年以上前に医学部の講義で豚を生で食べることがいかに危険か聴いた。
ただ、当時豚の生食は一般的でなかった。
ゲテモノを好む特殊な嗜好という位置づけだったと思う。
最近のニュースで豚レバーを生で提供することが禁止されたと聞いた。
今までが合法だったことに逆に驚いている。
それも牛レバーが禁止されてから短期間に広まったのだという。
いやあ、これはさすがにまずいでしょう。
レバー以外の部位でも生で良いとは言えないが、レバーは特に危険だ。
食文化などと言っている人もいるようだが、歴史的には生食は普通ではない。
個人の自由でもない。公衆衛生上の問題だから。
「好きなものを食べたい」という程度の低い欲求より社会的衛生管理は完全に優先する。
今言われているのはE型肝炎やサルモネラなどだが、それだけでの問題ではない。
将来的にもっと重大な問題をおこす心配がありそうだ。
人畜共通感染症という概念がある。
生物学的に近い種では感染症がおこりやすい。
そして病原体のDNAは変異を繰り返し、新種を生み出す。
強毒化し、そして人から人への感染力を獲得するかも知れない・・
生食禁止に反発するツイートが大量に出たらしい。
これは無知か無責任によるものだと思う。
特に、現職の国会議員有田芳生氏が豚レバー禁止を批判したのだとか。
国会議員ともなれば発言の影響は大きいのだから、もっと慎重であるべきだった。
よく勉強してから責任ある言動を取ることが求められているのだ。
きちんと、発言の撤回、謝罪、生食禁止に支持表明、などが必要だろう。
それができないのなら政治家失格である。
私は生食禁止を全面的に支持する。
ほとんどの医師は同じ意見のはず。
(2015. 6.14)